もしものときのための抗インフルエンザ薬講座

新型インフルエンザの治療薬


ようやくうちの会社でもパンデミックに関する話題がチラホラ出るようになってきたようなので、ここらで抗インフルエンザ薬についてまとめてみます。

オセルタミビル (タミフル) :中外製薬


現在ある中でおそらく一番有望な治療薬だと思われます。新型インフルエンザ感染時は、通常の倍量である4cap分2で服用しなければならないのがポイント。

異常行動の報告等ですったもんだありましたが、現状、タミフルに代わるファーストチョイスはないでしょう。

ザナミビル (リレンザ) :GSK


タミフルの異常行動に関するネガティブキャンペーンが盛んだった時期に、若干評価が上がったような気もしますが、やはりあくまでも二番手。タミフルに対する耐性が確認されたときなどに使用する薬というイメージです。

吸入薬という剤形上、小児・高齢者には使いづらい点が最大のネックになっていると思います。また、咽頭などの局所で効果を発揮し、全身に移行しないという特徴も新型インフルエンザに対してはマイナスです。なぜなら、新型インフルエンザは従来のインフルエンザと異なり、全身に移行し、サイトカインストームや多臓器不全を起こすため、それを治療するための抗インフルエンザ薬も全身に行き渡らせる必要があるからです。そのため、咽頭等からウイルスの進入を防ぐために予防投与するのであれば、ある程度有効かもしれませんが、新型インフルエンザウイルスが体内に入ってしまった後の治療薬としては、疑問が残ります。

CS-8958 (第3相臨床試験中?) :第一三共


長時間作用が持続するニュ−ラミニダーザ阻害薬(LANI)と言われており、1回の投与でタミフル5日間の服用と差は見られなかったという発表もありました。作用機序は上記2つと同じノイラミダーゼ阻害であり、剤形は吸入薬なので、イメージとしては1回使い切りタイプのリレンザという感じでしょうか?

現在、第3相臨床試験中の段階で、市場に出てくるのは、早くても来冬あたりと言われています。正式な資料はまだないので何とも言えませんが、リレンザ同様、吸入薬=局所作用型ということで、新型インフルエンザには期待できないかもしれません。

T-705 (第2相臨床試験中?):富山化学


ウイルス由来RNAポリメラーゼ阻害剤という今までの抗インフルエンザ薬と全く違う作用機序を持つ薬剤です。現在、まだ第2相臨床試験中のようなので、実際の発売はまだ先になると思いますが、個人的にはこれが最も有望な治療薬になりそうな気がします。

ただ、いまだ臨床試験の真っ只中なので、今後、大きな副作用等で開発自体が中止に追い込まれる可能性もゼロではない点が懸念材料でしょうか。

アマンタジン (シンメトレル) :ノバルティス


いまやほとんど使われなくなったシンメトレルですが、H5N1などの新型インフルエンザといわれる多くがA型インフルエンザであることを考慮すると、全く役立たずというわけでもなさそうです。もしかしたらちょっとした予防作用ぐらいは期待できるかも…?

ちなみに先日話をしたノバルティスのMRは、「この薬(シンメトレル)って、なんで効くのかよくわからないんですよね〜」と言ってました。なんで効くかわからないからこそ、「精神活動改善剤」「パーキンソン症候群治療剤」「抗A型インフルエンザウイルス剤」といった脈絡なく様々な疾患に有効らしく、そこがシンメトレルの魅力でもあるそうです。ある意味、潜在能力は一番かもしれません。

麻黄湯 :ツムラ


添付文書の効能効果にもハッキリと『インフルエンザ(初期のもの)』と書かれており、意外と有名な抗インフルエンザ薬といえます。本格的に新型インフルエンザが流行すると、このあたりも欠品しだすかもしれません。

漢方薬なので、服用時にはいわゆる“証”を考慮することが重要です。ちなみに麻黄湯は“実証”向きですので、“虚証”の患者が服用すると、状態が悪化したり副作用しか出なかったりするリスクもあります。また、副作用としては、麻黄を含むため循環器系の副作用や不眠などが考えられます。

番外編 / ステロイド + 抗生物質


新型インフルエンザで最も恐ろしい症状はサイトカインストームですので、これをいかに抑えるかが治療のポイントになると思います。そこで有望視されるのが、ステロイドの大量投与により、サイトカインストームを封じ込める方法です。ステロイドの投与により細菌性肺炎等を併発する恐れがありますが、それは抗生物質で治療可能ですし、致死率の高いサイトカインストームを抑えることの方が大事でしょう。

特に若年者〜働き盛りの世代は免疫系が活発なため、サイトカインストームのリスクが非常に高いと考えられています。このようなステロイド大量投与療法も可能性の一つとして頭の片隅に入れておくべきではないでしょうか。

まとめ


新型インフルエンザは、従来のインフルエンザと違い、全身症状&サイトカインストームが特徴ですので、それを考慮した治療薬が求められます。
新型インフルエンザは、インフルエンザとは違う全く新しい感染症である」と言われていますが、治療薬に関してもこれまでの抗インフルエンザ薬と同じ基準で選ぶのは危険かもしれません。