子宮内膜症と治療用ピル

子宮内膜症(Endometriosis)とは

子宮の内腔以外の場所に子宮内膜細胞が生育している状態で、そこで本来の子宮内膜細胞と似たような活動をしてしまう病気。*1
つまり、ホルモンの影響を受け、発生した場所で増殖し、月経時に出血したり剥がれ落ちたりする。このような場合、子宮と違って出口がないため、炎症を起こして激しい痛みを引き起こす。

内膜症の病巣は10代後半〜20代前半に出来始め、20〜30代前半は勢いが強く、30代後半からは成長速度は遅くなっていく。*2

月経困難症との違い

月経困難症(Dysmenorrhea)とは月経直前や月経期間中に起こる、下腹部の強い痛みや腰痛、頭痛、吐き気、下痢、だるさなどの様々な不快症状のため、普通の生活が送れない状態のこと。

ちなみに子宮内膜症の痛みは、月経時以外(下腹部痛・性交痛・排便痛など)にも感じることが特徴的。
これは、腹壁腹膜や卵巣、ダグラス窩などの子宮外に子宮内膜症が存在し、直腸などの周囲の組織と癒着を引き起こしているためである。

診断

問診、外診、内診、直腸診、エコー、CT、MRIなどの臨床診断では、推定することしかできず、子宮内膜症の確定診断を行なう為には腹腔鏡で直接見るしかない。
しかし、腹腔鏡を行なうまでにその他の臨床診断を行なうため、実際の確定までには初診から時間がかかること、また、子宮内膜症自体が進行性の疾患である為、なるべく早めに医療機関を受診することが重要となる。

治療(薬物療法

薬物治療のポイントは排卵を止めることであり、その方法によって大きく2つ(偽妊娠療法・偽閉経療法)に分けられる。

欧米では既に低用量ピル(偽妊娠療法)の有用性が確立されていたが、日本では今もNSAIDsが第一選択で、その次がGnRHアゴニストである。ただ、ここ数年のデータではピルの使用実績がかなり伸びてきており、“今日の治療指針2008”でも子宮内膜症の治療ガイドラインとしてピルの使用が明記されている。

低用量ピル (OC = Oral Contraceptives)

偽妊娠療法。
排卵を止めるのはプロゲステロンだが骨や血管への影響を考慮するとエストロゲンも必要。
そこで、両方の作用のあるピルが良いとされる。

また、身体に負担をかけないためにはホルモン量が安定している状態がベストなので、3相性よりも1相性の方が良い。

GnRHアゴニスト

偽閉経療法。
反復投与により下垂体のGnRH受容体のダウンレギュレーションを起こし、LH、FSH、卵胞ホルモンの分泌を抑制し、子宮内膜組織を閉経期と同様に萎縮、退行させる。

偽閉経状態を作り出すため、副作用も閉経時と同じで、更年期症状や骨粗鬆症などが多い。

また、非常に切れ味は鋭いが、6ヶ月という投与制限がある。

ダナゾール

偽閉経療法。
男性ホルモンの誘導体で、低エストロゲン状態 = 閉経状態を作り出す。

男性ホルモン誘導体なので、副作用もそれに応じた男性化症状、ニキビ、多毛、体重増加などが多い。

GnRHアゴニスト同様、使用制限があり、こちらは4ヶ月間である。

漢方薬

主にツムラ23(当帰芍薬散)

ピルの副作用

服用初期の副作用として不正出血、吐き気、むかつき、頭痛、むくみ、乳房の痛みなどが現れることがある。
これらは妊娠初期に似た症状であり、身体が慣れてくるまでの一時的なもので、次第になくなっていく。たいていは1〜2サイクルでおさまり、長い人でも2〜3サイクル服用続ければ症状はなくなる。*3

また、ピル服用時のリスクとして静脈血栓塞栓症(VTE)がある。これは健常者では特に問題にならない*4が、喫煙本数が15本/日を超えると一気にリスクが高まるので注意が必要である。

その他、服用上の注意

服用忘れに気付いた時の対処は?

1日忘れ → 気付いた時に1錠服用し、当日服用分も予定通りの時間に服用する。
2〜3日忘れ → 気付いた時に2錠服用し、当日服用分も予定通りの時間に服用する。
4日以上の忘れ → 出血があるかもしれないので、必ず医師に相談。((医師の対応としては「出血を偽生理として扱って、7日間の休薬期間にあてる」か「あくまでも当初の予定を崩さず、出血があっても21日間飲みきる」かの2通りが考えられる。どちらにするかは個々の医師の判断に任せられる。))

ピル服用時に妊娠を希望した場合は?

服用中止後2サイクル空ければ妊娠可能状態となる。

錠剤の服用順序は?

2相性や3相性のピルの場合は、ホルモンバランスを考慮しなければならないため、錠剤にも服用順序があるが、1相性(例:ルナベル等)の場合は、どの錠剤も同じ組成なので特に順番を気にする必要はない。

*1:本来の子宮内膜には異常はない。あるべきところでないところに子宮内膜が発生することが問題なのである。

*2:"出産すると治る"というのは間違い。

*3:どうしても我慢できない時はピルの種類を変えると楽になることがある。

*4:妊娠時でもピル服用時と同程度以上のVTE発現リスクがあり、特に過剰な心配はいらない。ただしケアは必要である。