感染症との闘い

感染症との闘い”を読みました。

はじめはあんまり期待していなかったけど、意外と面白かったです。最近、ジェニナックの勉強会で耐性菌の話を聞いたりしていて、話題がタイムリーだったからでしょうか。

個人的に面白かった点をまとめておきます。

病原体の毒性と公衆衛生

公衆衛生が発達すると病原体の毒性が弱まるそうです。

病原体(最近やウイルス)は、自分たちが永く生き残るために最も都合のいいように宿主となる人間をコントロールします。
例えばコレラ菌の場合だと、不衛生な環境下では毒性が強く、宿主を一気に弱らせても、汚水等を媒介してドンドン菌が広まります。しかし、公衆衛生が発達した環境下では、病原体を広めるのに役立つ汚水があまりないので、毒性を弱めて宿主を色んな所へ歩きまわらせて病原体をばら撒くように仕向けなければなりません。

不衛生な環境
 → 宿主から感染が広がるチャンスが多い
 → 強い毒性で宿主を一気に殺しても大丈夫

発達した公衆衛生
 → 宿主から感染が広がるチャンスが少ない
 → 毒性を弱くして宿主を広範囲に動けるようにしないといけない。


これをHIVに当てはめて考えると、HIVの啓蒙活動が盛んに行われ、コンドームの使用率が上昇し、簡単に感染する機会がなくなっていくとHIVウイルスの毒性は弱まっていくのかもしれません。

慢性疾患の原因は感染

高血圧や糖尿病といった慢性疾患は感染が原因かもしれません。

あまりに馬鹿げた話ですが、肝炎ウイルスと肝ガン、パピローマウイルスと子宮頚ガンの関係性が認知されたのはここ10数年のことです。

アルツハイマークラミジア統合失調症トキソプラズマの関係性を調べた研究もあるそうです。

医学の進歩はまだ続いていますので、今の固定観念で考えるのは、もしかしたら危険なことかもしれません。

抗生物質と耐性菌

現代の抗生物質の乱用は明らかに耐性菌の発現に優位に働いています。

必要のない抗生物質を服用することで、ヒトに無害な感受性菌が死に、その分、耐性菌が発育するのに有利な環境になります。

また、耐性菌は突然変異ばかりで発生するわけではありません。通常の感受性菌が他の耐性菌からプラスミドを利用して耐性遺伝子をもらい、耐性化することも多々あります。

つまり、無用な抗生物質を連用することで、あるヒトに無害な常在菌は死に、また別の無害な常在菌は突然変異を起こし耐性化します。そこで実際に感染が起こると、感染した菌は耐性常在菌から耐性化に必要な遺伝子をプラスミドを通じてもらい、容易に耐性化してしまうのです。

無菌抗菌が声高に叫ばれている現代の環境下では、多くの常在菌が耐性遺伝子を獲得している可能性があります。それは即ち、感染菌の耐性化リスクにも直結しているのです。

まとめ

本書は感染症のみに絞って書かれた本ですが、その分、深いところまで言及していて、最後の方では生物兵器の話にまで話題が及んでいます。

抗生物質感染症の勉強会に出席した後に読むと、より面白いと思います。

科学の最前線 3 感染症との闘い (科学の最前線 (3))

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もうひとつ紹介

個人的には広く浅くという点では、こっちの方がさらに面白かった記憶があります。

服薬指導のマニュアル本に飽きたら是非読んで欲しいです。

迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来たのか

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